
神殿は崩れ落ち、月の女神は闇に葬られた。リンは何度も振り返りつつも、その歩みを止められなかった。
リンは月光を取り戻すほどだんだん明るくなったが、それに反して彼女の心に差す影はより濃くなっていった。
疑惑は謎に包まれたまま、膨らむばかりであった。膨らむのは疑惑だけではない。
「リリーダ。」
繰り返しその名を呼ぶ度に懐かしさが潮が満ちるように押し寄せる。過去でも、その記憶の中でも、リンは独りではなかった。
数々の感情がぐちゃぐちゃに絡み合い、立ち止まりそうになるリンの歩むべき道を照らし導いたのは熱望ではない、渇望だった。
「誰か。」
リンは誰かに会いたかった。自分も知らない、自身の話をしたかった。
「リリーダ。」
初めて聞く名から感じる懐かしさ。滲む夢が覚悟となり、リンの背を押した。
セイレーン:
ラララ~♪
リン :
あれは敵…!?
なんか歌ってる…とっても上手だけど…!
ううん!他のこと考えてる場合じゃないって!ニア、準備しよ!
ニア :
準備…?なんの準備?
リン、そんなこと言ってないで歌を聴いてみようよ。
リン :
ニア…?どうしたの?
目の前に敵がいるでしょ!しっかりして!
ううっ、普段のニアはこんなこと言わないのに!
ニア :
リン、何言ってるの…こんな歌を歌う人が敵なはずないでしょ?
私、もう疲れたの。天王星を取り返すのも…
すべて忘れて休みたい…
リン :
ニア、しっかりして!お願いだから!
あんた!歌うのやめてくれない!?
セイレーン:
ラララ~♪
リン :
うう…ニア少し我慢してね…!
ニア :
いたっ!
…あれ?ここはどこ?
リン :
なにも…覚えてない?
ううん、ひとまず戻ろう、ニア!
ニア :
…あ、うん。
セイレーン:
行っちゃうの?
リン :
しゃ、しゃべった!歌うだけじゃないんだ!
ニア :
えっ…?
セイレーン:
行かないで。もう少し一緒にいて。
もしかして、私のこと嫌いになっちゃったの…?
リン :
初めましてなのにそんなこと言うの!?
自己紹介からしなさいよ!
セイレーン:
私?私は…セイレーン。
夜空を守る12星座の最初うお座の守護神。
話してごらん。どんな歌が好きなの?
リン :
しらない!
あんたの歌のせいで、どれだけ多くの人が迷惑してるのか分かってるの!?
特にニア!
ニア :
うん?私?
セイレーン:
そんなこと言わないで。
あなたたちの好きな歌を歌ってあげる。
だから一緒にいよう。いつまでもずっと。
リン :
ニア、あの人危ないよ!なんか変なこと言ってる…!
ニア :
それに全身から感じるあのオーラは、夜の力…?
リン :
でもなんで悲しそうなの…?
ううん、今は敵に集中しないと!
ニア、戦えそう?
ニア :
うん、大丈夫!
セイレーン:
どんな歌が好きなの?話してごらんなさい。
あなたたちが聴きたいなら歌ってあげる。
どんな歌でも。
セイレーン:
ついに、私の夜も終わりなのか…
ニア :
リン、あの人もアルテミスみたいに…
リン :
そう。夜に支配されてたの。
ニア、私やっぱり夜のことは絶対に許せない!
ニア :
リン…
リン :
私たちの力で、絶対に夜を倒そう!
ニア :
そうだね、一緒に倒そう。
セイレーンはかつて、惑星を訪れた者たちを慰める歌姫でした。
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